脂がのり過ぎたハモはあかん。

食べ歩き ,

「梅雨の水を飲んでハモはうまくなる」。

鱧の旬は一般的にはそういわれて、7〜8月に出される。

脂がのっているからである。
最近では脂ののりがいいとして、韓国産のハモが賞賛されている。

「浜作」でも7〜8月にハモは出す。しかし、連休前あたりからも扱う。
店主森川さんいわく、「脂がのり過ぎたハモはあかん」。そう、父と祖父から言われ続けたという。
五月のハモは、脂の香りやコクに邪魔されない分、ハモ本来の味が見えてくる。
昨今では、ノドグロやキンキなど脂の多さ(くどさ)に軍配が上がるようだが、多き脂でコーティングされた味は、得てして単一的で、粋ではない。

五月のハモは、繊細な甘みが舌を包み、その中かからふっと微かに、猛々しい滋味が顔を出し、コーフンさせられる。
これから脂を蓄えようとせんとする、生命力の萌芽に満ちていて、ありがたみが染み渡るのである。
五月のハモは、ハモの塩分を強めにし、つゆの方は薄めにする。しかし次第に脂が乗っていくに従って、その塩梅を逆転させていく。
塩をするといっても直接ハモに塩はしない。
ぐらぐらと煮立った塩湯に潜らせる。それによってハモはへたることなく、身体を活かす。
葛つけて葛たたきにするのだが、ハモの切り方、皮の活かし方、葛の量、葛のはたき方などなど、細部に渡って工夫がこらされている。
それゆえに、唇に優しくキスをする。
葛とハモが一体となって、歯に食い込む。
よく見かけるように、表面を覆う葛の膜とハモの身が別々ではないのである。
葛の存在はあるが馴染み、ハモと一心同体になって崩れていく。
舌の上で花弁のように散り、品のある甘みの余韻を残しながら消えていく。
そしてつゆは、最初の一口はなにごともなかったように、淡い淡いうまみを隠しながら、次第に味を高め、最後の一滴でクライマックスに達し、別れを告げる。

「京ぎをん 浜作」にて。